パンチャカルマは、アーユルヴェーダの治療の中でも「浄化法」と呼ばれる5つの術式です。
過剰なドーシャを老廃物とともに排出し、細胞の活性化と循環を促す伝統医療です。近年アーユルヴェーダの普及とともに興味を持つ方が増えてきました。
インドで受けるパンチャカルマを10年以上体験し、50人以上のパンチャカルマの症例を見てきた筆者が体験した、パンチャカルマの効果を最大限に引き出すためにしっておくといい事をお伝えします。
1: パンチャカルマとは?アーユルヴェーダの基本知識
パンチャカルマは病気の予防や健康を向上、増進を助け、心身的、神経学的、消化器官的、心臓血管、多くの慢性的変性疾患、自然発生的な状況にも役立ちます。(テキストより)
1-1: アーユルヴェーダの歴史と背景
パンチャカルマを知るためには、アーユルヴェーダの歴史と背景を知っておくといいです。
私たち日本人が知っている医学の知識は西洋医学が主流です。
アーユルヴェーダでも、もちろん西洋医学の知識は必要不可欠です。さらにアーユルヴェーダには独自の考え方が加わります。
パンチャカルマを受ける患者さんは、アーユルヴェーダの基本的な知識があるとさらに効果が高まります。
アーユルヴェーダは、インドに古くから伝わる伝統医学です。その歴史は6000年前から存在しているといわれています。
心・体・自然とのバランスを重視して健康を維持することを目指します。
パンチャカルマは、体内に蓄積された毒素(アーマ)を排出し、バランスを取り戻すために行われる浄化プロセスです。
アーユルヴェーダは、単なる医療体系としてではなく、インド哲学に基づいたライフスタイルや生き方を強調します。
特に、インドのサーンキャ哲学と密接に関連しており、この哲学は宇宙の創造、自然、生命の本質について説いているものです。
アーユルヴェーダでは、肉体、精神、魂の調和が健康の鍵であるとされており、個人のライフスタイルや食事、習慣が体内のドーシャバランスに影響を与えると考えられています。
近代のアーユルヴェーダも考え方は変わりません。
人間の本質はどんなに技術が発展しても、自然との調和や心と体のバランスが大切なのです。
1-2: パンチャカルマの目的と効果
パンチャカルマの主な目的は、体内のドーシャ(ヴァータ、ピッタ、カファというエネルギーの3要素)のバランスを整えることです。
これらのドーシャのバランスが崩れると、消化力が弱り、毒素(未消化物ともいう)が細胞レベルから蓄積していきます。
未消化物は、体の組織を阻害したり、つまりをおこし病気や不調の原因となるとされています。
パンチャカルマは、過剰なドーシャと未消化物を浄化して健康を回復・維持するために行われます。
「ドーシャ」自体は目に見えるものではありません。
ドーシャはそれぞれ特徴があり、その特徴がその人の肉体や正確に影響します。
このドーシャは人間の体の中にあるだけではなく、物質や自然にも3つ必ず存在します。
私たちは、生きているとドーシャのバランスが崩れてきます。これは誰にでも起こることです。
パンチャカルマの効果は、
- 健康な人をより長く健康に
- 病気の人の症状の緩和と再発防止
と、どちらにも効果的です。
どうしても、治療と聞くと病気を治すものと考えられがちですが、パンチャカルマは健康な時にやっても高い効果を得られます。
1-3: 身体の浄化プロセスの重要性
アーユルヴェーダでは、体内に未消化物が溜まると、ドーシャのバランスが崩れ、病気や不調の原因になると考えられています。
未消化物は何も体だけではありません。
思考や心の未消化物も同様です。
未消化物は、食事やストレス、不適切なライフスタイルなどによって蓄積されます。
お部屋の掃除と同じことが体の中や心の中で起こっているとイメージしてください。
最初、ほこりだけで簡単な部屋の掃除が、片付けないものが増え、動かさないもので床が埋まってくる感じです。
本来、毎日ゴミ出しをして、ほこりを取るだけなら、5分もかからないはずなのに。
定期的な浄化を行うことで、体の自然な自己治癒力を高め、エネルギーレベルを回復し、内側から健康を保つことが可能です。
2: パンチャカルマの具体的なトリートメント内容
2-1: パンチャカルマの主要な施術内容とその効果
パンチャカルマは、特定の準備段階と回復期間が必要です。
パンチャカルマは3ステップあり、その期間は人によって異なります。
まず、準備段階は前施術ともよばれ、主に体内を温めるスネハナ(Snehana)(薬用オイルを使った治療)やスウェダナ(Swedana)(発汗療法)、投薬などが含まれます。
前施術の効果は、体を温め循環を促す事で体内から未消化物を排出しやすくします。
施術期間は、7日ほどかかります。この7日間という期間は非常に大切な期間で、意味があります。
ここでは割愛しますが、ゆっくりと時間をかけて体と心に準備期間を施すことで排出できる仕組みがあるのです。
そして本施術が行われます。
以下の5つの主要な治療法で構成されています。
ヴァマナ(Vamana) – 嘔吐療法:呼吸器や消化器の未消化物、過剰なカファを取り除くために、嘔吐を促す治療法です。カファ異常のアレルギー疾患などに使われます。
ヴィレチャナ(Virechana) – 瀉下療法:消化器や腸に溜まった未消化物を取り除くための下剤治療法です。特に過剰なピッタを調整し、消化器系の問題などに使われます。
バスティ(Basti) – 浣腸療法:体内に溜まったヴァータを調整するための浣腸療法です。特に関節痛や神経系の問題、老化防止などにも使われます。
ナスヤ(Nasya) – 点鼻療法:薬用オイルや薬用ギーを鼻から吸入し、頭部や鼻腔内に溜まった毒素を取り除きます。特に頭痛、鼻詰まり、アレルギーなどに効果があります。
ラクタモクシャナ(Raktamokshana) – 瀉血療法:血液を浄化するために、少量の血液を放出する治療法です。薬用のヒルを使用することもあります。特に皮膚疾患や高血圧に用いられます。
施術後には、体が再び適応できるように、特定の食事や生活習慣を守る必要があります。
これは後施術と呼ばれ、食事療法には投薬も含まれます。
アーユルヴェーダでは、「食べ物を薬のように食べる」という考え方があるので、食事も大切な薬の一つだという考えです。
アーユルヴェーダの薬は全て天然のハーブとミネラルでできているため、動物実験をしたり、遺伝子組み換えは一切ありません。
動物性は牛乳のみで、薬用ギーが薬として使われますが、それ以外は全て植物由来です。
2-2: インドでのパンチャカルマ体験
パンチャカルマを受ける前
パンチャカルマを受けて薬を飲んで2か月後
2か月目以降から痒みもなくなり、全体的に元気になっていった。
現在。10年たっても再発はない。アレルギーもでてこない。
インド在住10年目になりますが、コロナ禍を除いて、1年に1回ほどパンチャカルマを受けています。
小学生までは健康優良児でしたが、第2次成長期とともに体はバランスを崩し、思春期はニキビに悩まされ皮膚科も通っていましたが、改善されずに大人になりました。
20代のサラリーマン時代は、外食中心、お酒とたばこ、栄養ドリンクなどひどい食生活をしていました。
30歳まではアーユルヴェーダもパンチャカルマも知らなかったのです。
アレルギー性皮膚疾患、ヘルニア、ストレスからくる神経障害、冷え性改善、生理不順、などを経験しています。
病名をずらっと並べると、なんと不健康な、、と自分でも思います。
しかし、インドに在住し10年たちますが、あんなにしょっちゅうお腹を壊していたり、熱をだしていたにも関わらず、気がつくと全くと言っていいほど健康です。
これらの恩恵を受けたポイントがいくつかあります。
100名以上パンチャカルマ患者さんの症例を見てきた私が、思う「パンチャカルマを行う時に知っておくといいこと」を今からお伝えします。
3: パンチャカルマを受ける際の注意点
ここでは「インドでパンチャカルマを受ける」ことを前提にお話しします。
日本でも受けられる病院が増えているようですが、その場合に当てはまらない事がありますのでご了承ください。
3-1: 渡印前の問診と体調の確認
なかなか取れないお休みを調整してインドにパンチャカルマを受けに来るのですが、せめて渡印前の2週間前は以下の事を守ると、期間中の効果が得られます。
- お酒が抜けた体をつくる
- 睡眠をとる
治療中は、できるだけ効果を得るために、お酒もたばこも避けていただきます。それはインドに来てからやめる、だと乱れきったドーシャが落ち着くまで日数がかかる場合があります。
「インドでパンチャカルマを受けるためにギリギリまで仕事がんばろう」
と思ってお越しになる方がほとんどです。非常によくわかります!
しかし日本からインドに来るだけで、日常のリズムは乱れています。どんなに健康な人でも初日はフライトの疲れと時差や環境の変化があります。
日本で我慢していた体の中のドーシャが、インドで開放的になると活発になり、熱を出したりしますが安心してください。
ほとんどの皆さんがインドの環境で緊張していたものが緩んできた時に起こる症状です。
渡印前1か月前には、一度ドクターとのオンライン問診を受けておくのもおススメです。
パンチャカルマは、ご自身の自己治癒力を天然由来の薬やオイルで未消化物の排出のサポートをする治療です。
突然今までと違う習慣がつかないように、排出もすぐ簡単にとはいきません。
その期間はインドからではなく、日本にいる間から準備することでかなり変わってきます。
旅行前は、インドに限らずいつも以上に体調を整えていきましょう。
3-2: パンチャカルマ初日とその後の身体の変化
パンチャカルマ初日は、まず「問診」から始めます。
この時の注意点は以下です。
- 現在の悩みをまとめる(薬を飲んでいれば何を飲んでるかも記載しておく)
- 最近の睡眠、食欲、排泄を意識して観察する。
- 過去の病歴を伝える
もちろん、調子がよくていい状態ならそう伝えてください。
最初は、緊張しているからか、あまりドクターに話せないことが多いです。
インドで遠慮はあまり必要ありません。
思っている事は「その時」言っておくべきです。もちろん文化の違いですから、いきなり話せと言われても戸惑うかもしれません。
気持ちはよくわかります。英語ですし。
ある程度、英語ができても医療的な表現は難しいものです。
パンチャカルマを受けるなら「アーユルヴェーダ治療を知っている」通訳がいるとだいぶ違います。
治療中は、毎日自分を観察する日々です。
睡眠、食欲、排泄の状態はどうか。心の状態はどうかを自問自答します。
可能な限りスマホや仕事は最低限に控え「空白の時間を作る」ようにしてください。
治療中の期間に「新しい習慣をつける」練習をするのもその後の体の変化を感じられる一つです。
- 朝早く起きる
- 夜早く寝る
- 作り立ての食事を食べる
- 適度な運動をする
など、これらは日本に帰っても行ってほしい基本的な日常生活です。
パンチャカルマ期間中は、比較的時間に余裕があります。
自分の心と体の変化を感じながら、今までの生活でできていなかった養生法を取り入れるいいチャンスです。
3-3: パンチャカルマ後のケア
パンチャカルマ後のケアは、食事法(投薬も含む)が中心です。
インドでは、パンチャカルマ後に投薬が処方される事が多いです。アーユルヴェーダの薬はハーブとミネラルでできている自然由来のものです。
食事療法は、その人のドーシャ傾向によって気を付けた方がいい点がアドバイスされます。
ここで、10年以上パンチャカルマを受けてきた経験者として伝えたいことがあります。
食材以上に食べ方・時間帯・環境を大事にする
です。
パンチャカルマ後の体は、非常に敏感になっています。五感が研ぎ澄まされているのがわかる人もいるでしょう。
この感覚は、残念ながら普段の生活に慣れてくると薄れてきます。
食欲がある時に食べ物を食べる。こんな簡単な事ですが、これも意識しないと案外できないのです。
時間帯は、本来健康ならお昼10時から2時ぐらいまでの間にお腹がすくようになっていきます。
夜は反対に寝る前なので消化に時間のかからないものを選んで量も少なめにします。最初はお腹がすくかもしれませんが、少しずつ慣れてくるはずです。
夜の10時から2時の時間は起きているとお腹がすいてくる時間帯です。
それを避けるために早寝をしてください。代謝が上がります。
体を健康維持するためのディナチャリヤの一つです。
最後に3つ目の食材以上に大切な「食べる環境」です。
- テレビやスマホを見ながら食べる。
- 誰かと話しながら食べる。
- お酒を飲みながら食べる。
- 仕事しながら食べる。
残念ながら、どれもきちんと消化できません。「意識」は消化にすごく関係します。集中すれば消化力は上がります。
これらの習慣づけがパンチャカルマ中につけば、日本に帰ってからも続けられます。
4:帰国後の生活に取り入れるべき点
帰国後は、仕事も始まりインドでの生活とは違って忙しくなるでしょう。気を付けてほしいのは、パンチャカルマの後の生活です。
4-1: 心身の健康維持のためのアドバイス
帰国後、パンチャカルマ後の体は思っている以上に敏感になっています。気候の違いや温度差も体にとってはストレスになる場合があります。
意識しなくても、体は変化に対応しようとしてかなり緊張状態が続きます。
帰国後は、なるべく時間や行動に余裕があるスケジュールにしてください。
特に睡眠はどうしても削りがちですが、テレビやスマホ、PCなどを使う時間帯を朝型にシフトして夜は離れてみる、など睡眠ファーストな生活にします。
もう一つは、自分の直観を大切にしてください。
パンチャカルマ後の五感は非常に研ぎ澄まされています。
なんの変化もない人もいますが、まれに音に敏感になったり、匂いに敏感になる方もいます。
次第に慣れてきますが、これらは体が自然に反応している状態なので、体が拒否しているものを食べたり、聞いたりしない方がいいです。
4-2:アーユルヴェーダ薬の飲み方
パンチャカルマが終わった後から、お薬が処方される場合があります。
アーユルヴェーダの薬は、ハーブやミネラルを基にしたさまざまな形態で提供されます。
これらの薬の形態は、個人の体質や症状に応じて異なります。
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カシャヤ(Kashaya): ハーブを煮出して作られる液体薬。カシャヤは一般的に苦味や渋みが強いため、食前または空腹時に飲むことが多いです。
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アリシュタ(Arishta): 発酵させたハーブ酒。これらの薬は消化を助け、食後に少量を摂取することが推奨されます。
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グリタ(Ghrita): ギー(精製バター)をベースにした薬。体内での油分補給や浄化に使われるため、空腹時に飲むことが多いです。
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チュルナ(Churna): ハーブの粉末。チュルナは、食後に水や蜂蜜と一緒に飲むことが一般的です。
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タブレットやカプセル: これらは現代的な形態ですが、アーユルヴェーダでも利用されています。体のバランスに合わせて、タイミングを調整して摂取します。
アーユルヴェーダの薬は自然由来の薬なので、食べ物よりは少ない量ですが、普段飲んでいる薬と比べると量や種類が多いのが通常です。
複数の薬をとるのは効果を高めるためです。
アーユルヴェーダの薬の飲み方は、薬の種類、タイミング、体質に合わせて非常に柔軟に調整されます。
健康な人にもパンチャカルマ後は薬を処方します。どの薬も漢方のような位置づけで副作用もありません。
飲み方の注意点はいくつかあります。
- 万が一不具合が起こったらすぐやめてドクターの診断を仰ぐこと
- 薬と一緒に飲むもの、飲むタイミングを守る事
アーユルヴェーダの薬と一緒に飲むものは、常温の水やぬるま湯、牛乳、はちみつ、ギーなど薬によって指定があります。
これは全て意味があります。
アーユルヴェーダの薬の効果を引き出すには「何と一緒に飲むか」が大事だからです。
これらの飲み物は、薬の効果を高め、吸収を促進するために選ばれます。
適切な摂取方法を守ることで、薬の効果を最大限に引き出し、体のバランスと健康をサポートすることができます。
薬の摂取は専門家の指導のもとで行うことが推奨されています。体の反応を見ながら慎重に進めることが大切です。
4-3: パンチャカルマは病気の治療だけではない
パンチャカルマの最大の恩恵は「健康な状態を長く続けられる事」です。
過剰なドーシャや老廃物は、どんなに健康に気を付けている人でも年々散り積もってきます。
これらを定期的に取り除くことで免疫向上や細胞の活性化につながるのです。
どんなに栄養のあるものを食べても、いい健康法を試しても、その人の消化力や性質を無視したら残念ながら効果がでません。
どうして、5000年前の療法が今でも真剣に研究されているのか。
それはこんな科学的な時代においても、体の中はまだまだ分からないことばかりで、それは自然との調和や浄化法と呼ばれる治療で改善することがあるからです。
その人が持つ潜在能力はたった10パーセントほどしか使われていないという研究結果もあります。人間の自己治癒力を高め、免疫を上げるなら健康な時にやっておくほど効果の高いことはありません。
10年後の自分への投資として、パンチャカルマはぜひ健康な人ほど受けてほしい治療です。